労働時間の管理について
「退職した元社員から不払いの残業代を支払ってほしいといわれたが、払うものはすべて払っている。要求どおり支払うべきか」というご相談がありました。結果的に支払うことになりそうですが、問題は労働時間の管理がきちんとされていなかったことにありました。
1.労働時間とは
労働時間とは、「使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否か」(平成12年3月9日最高裁判決)という観点から客観的に判断されます。その具体的な判断基準として、
@ 使用者からの義務づけがあったか
A 使用者の明示・黙示の指示によらず、業務の準備行為等を行うことを余儀なくされたものかどうか
です。したがって、始業前の清掃・更衣時間、体操や朝礼等は、それが上記の基準に該当するものであれば、労働時間と判断されます。
2.労働時間を管理する際の注意点
冒頭のご相談のケースでは、タイムカードはあるものの社員まかせだった、営業日報(報告)の取り決めがなく社員独自で作成したものが提示された等の事実がありました。以下に「労働時間の管理のための注意点」を述べます。
@ 始業・終業時刻の確認及び記録
・社員が就業する日ごとに始業・就業の時刻を確認し、記録する。たとえば、タイムカード等を使用している会社は、残業時間を含め、適正に労働時間が打刻されているかを確認し、押印等をする。
・とくに営業等に従事する社員に対しては、営業日報や業務報告書の作成を制度化し、業務の量と質を確認する。これは、ただ労働時間管理のためばかりでなく、会社の経営目標達成のための社員の業務の進捗度の確認や、業務配分管理に活用する意図もある。
A 自己申告制による始業・終業時刻の確認及び記録
・対象となる社員に対して、労働時間を正しく記録すること、適正に自己申告すること等十分な説明をする。
・記録した労働時間と実際の労働時間が合致しているかについて確認する。
ご相談いただいた会社様のケースでは、基本的に労働時間の管理を社員に任せていました。そのなかで某社員の方のタイムカードの残業時間が手書きで記入されていたり、その人が業務日報を自ら作られ(会社からの指示ではなく)、この2点をもって残業代の不払いを請求してきた、というものでした。
会社としてみれば、信頼関係が裏切られた、というところかもしれません。ここから学ぶべきことは、労働時間の管理を定期的に、適正に行う、ということです。そして、もうひとつは、労働時間の管理を戦略的経営に活かす、という点です。
3.労働時間管理を戦略的にとらえ、経営に活かすために
労働時間を管理することは、給与の計算をするためとか、社員の時間管理をするため、法に触れないようにするため、ということだけではありません。とくにホワイトカラーの生産性が低いといわれている日本において、経営の効率化を図るために、労働時間管理を戦略的にとらえてみてはいかがでしょうか。そのためにの労働時間の管理を経営に活かすヒントを述べます。
@ 「目標による管理制度」を採り入れ、労働時間の管理とともに各社員の業務の目標に至るプロセス、進捗状況、今後の展開等を確認する機会とする
A 会社の現状や方針の説明、意見の吸い上げの機会とする
B 社員とのコミュニケーションづくりや不平・不満などを聴いたり、コーチングする機会とする
C 社内制度の見直しを検討する機会とする、たとえば、変形労働時間制やみなし労働時間制の検討・採用等
D 組織目標達成のための業務の配分の見直しの機会とする
E 社員一人ひとりの能力や適正を見極め、適材適所の配置を検討する機会とする
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