このページでは、 財団法人 名古屋都市産業振興公社 名古屋市新事業支援センター 発行の『新事業支援ガイドブック・平成15年度版』に、同センターからの ご依頼により 私が執筆を担当した部分 『第2章 事業形態と会社設立』 を “そのまま”掲載しております。 尚、同支援ガイドブックは新規事業を起こしたい一般の方々を対象と しているため、よくある一般的な手続や事業についてのみ解説しております。 その点、ご了承ください。(2003年2月作成) 名古屋圏で新規事業開始を考えていらっしゃる方、 名古屋市新事業支援センター (〒464−0856 名古屋市千種区吹上二丁目6番3号 名古屋市中小企業振興会館5階 TEL(052)735ー0808 FAX(052)735ー2116) までご相談ください。 親切に相談に乗って頂けます。 |
創業時の事業形態 メリットとデメリット 有限会社設立の実務 株式会社設立の実務
他の法人組織・事業形態について 最低資本金制度の特例について 外国人が日本で起業する場合について
第2章 事業形態と会社設立について
(1)創業時の事業形態独立開業して事業を開始する場合、通常もっとも多いのは、個人の名前で事業を起こす(個人事業)か、会社を設立し 法人として事業を起こすかの、二つです。創業される方は、まずこのどちらかを選択しなければなりません。それぞれのメリット、デメリットを考慮し、法人にする場合、更にご自分の事業目的に合った形態の法人を選択する必要があります。
ここでは、個人事業 及び、法人の主だったものである4つの形態(株式会社、有限会社、合資会社、合名会社)の中で、近年もっとも設立の多い 有限会社の設立手続を中心に、他の様々な事業形態や、始まったばかりの最低資本金制度特例などについて説明していきます。
(2)メリットとデメリット
まず、個人・法人、それぞれのメリットとデメリットを検証してみましょう。
個人事業の場合、開業時の資金が少なくてすむこと。開業時の手続に手間が掛からず、その後の経理面でも 簡易帳簿で済むため、全般的に手続が煩雑ではありません。その分、本業に専念出来る といえます。これは、一人二人といった小人数で始める場合、特に有意義でしょう。また、商売替えや異業種への参加の際も、手続の手間が不要 もしくは最小限に押さえられるため、比較的 柔軟に新規事業にも対応出来る といえます。
一方、個人事業は法人に比べ社会的信用が低く、これは 商取引の条件や、資金調達の面等で影響が大きいでしょう。また、税金上、経費等が認められにくく、個人に累進課税制度の採られている日本では、所得が大きくなるほど税金の負担も増えてしまうこと。簡易帳簿が認められる分、経理面でどんぶり勘定になりやすく、結果、税務署からの推計課税を受けてしまい かえって損になる場合も多い などといったデメリットがあります。次に法人(会社組織)の場合ですが、個人事業と裏返しにしたメリット、デメリットがあります。
開業時にかかる資金や、設立登記などの煩雑な手続が必要であり、経理面でも 複式簿記による決算書類作成が義務付けられているため、開業後も煩雑な手続を要します。商売替えや異業種への参加の際には、定款上の目的を追加して登記しなければならない など、税理士や司法書士等の専門家への報酬も、個人事業に比べれば多くなるはずです。
一方、会社組織にしておけば、個人よりも社会的信用が高く、その分 商取引や、資金調達、宣伝効果、従業員募集の面などで有利に働くでしょう。また、税金面でも経費等が認められやすくて 節税対策が取りやすい というメリットがあります。個人事業主への累進課税に比べ、法人税は定率課税(資本金1億円・従業員50名以下の企業の場合、年間課税所得金額800万円以下であれば22%、800万円超であれば30%)であることなどから、一般的に 所得が1,000万円以上ならば会社組織にした方が良い とさえ言われています。
ちなみに、事業に失敗したときの責任問題についていえば、よく「会社であれば出資額の範囲内のみの責任でよい」などと言われますが、この点については、通常 日本では、どこの金融機関でも代表者の個人保証を求めますので、責任は個人事業主と同じ と考えるべきだと思います。以上のようなメリット・デメリットを踏まえ、ご自分の事業に合った形態を選択してください。(尚、職種によっては、個人事業でしか認められないものや、大事な取引先から「会社組織でなければ取引出来ない」などと言われ、選択の余地無く事業形態を決める というケースも多いようです)
(3)有限会社設立の実務
次に、会社の4つの形態(株式会社、有限会社、合資会社、合名会社)の中でも、近年もっとも設立の多い 有限会社の設立実務について、説明していきます。(『設立手続の流れ』については、次頁の表をご覧ください)
以前は、日本の会社組織の代表格 といえば 株式会社であったと思います。無論、今でも大企業はほとんどが株式会社ですし、代表格であることに変わりはありません。しかし 近年の新規事業についていえば、有限会社の設立が特に多く、一昔前の 株式会社を好むような傾向 は薄れて来ています。
まず、かつて10万円以上とされていた有限会社の資本金が「300万円以上」に引き上げられたことにより その分信用が増したこと。株式会社に比べれば設立手続が簡易で、監査役の設置や決算書公告の義務も免除されていること。株式会社の資本金「1,000万円以上」に比べれば、資本金も準備しやすいこと。
その割に会社組織としての社会的信用が得られ、前述のように 税金面でのメリットも受けられるため、「株式会社にまでしなくても、有限会社で充分」と判断する人が多くなったためだと思われます。以下、有限会社設立の手続につき、順を追って説明していきます。尚、これは通常の設立手続についてのものです。
有限会社設立のための手続
1. 管轄法務局の確認
会社の本店所在地(これから登記する場所)により、登記申請する法務局が違います。まずはこれを確認してください。尚、法務局には不動産登記しか扱っていない支局・出張所などもあるため、必ずしも 最寄りの法務局に申請出来るかどうかはわかりません。事前にご確認ください。
2. 類似商号の調査会社の名前を付けるには、例えば有限会社ならば、前か後に「有限会社」と入れなければならない、仮に金融業であったとしても銀行でない限りは「バンク」「信託」等入れてはいけない などの細かいルールがあります。
また、登記を考えている同一市区町村内で、これから行おうとする事業を既に行っている、同じ あるいは同じような商号の会社(有限会社だけではなく、株式会社や合資会社、合名会社も)があれば、そこの市区町村内では登記出来ないことになります。
尚、事業目的は将来始めるであろうものも含めて、いくつでも登記することが出来ますが、あまり事業目的の数を増やすと、それぞれに付き類似商号を確認しなければならず、面倒ですのでその点ご注意ください。
登記は会社設立手続の中でも最後の手続 といえますが、最初にまずこの類似商号の有無をしっかり確認しておかないと、最後に来て「登記出来ない」ということにも成りかねません。それまでの手続や費用が、全て無駄になってしまうかもしれないので 充分に確認した方がいいでしょう。
類似した商号が登記されている可能性を考慮し、事前に 商号をいくつか考えておくことをお勧めします。3. 定款作成のポイント
『定款』とは会社の憲法のようなもので、これからそれに沿って会社を運営していく というものです。定款に記載する事柄の中でも 特に絶対的記載事項と呼ばれるものには、商号、事業目的、本店所在地、資本の総額、出資一口の金額、社員の氏名及び住所、各社員の出資口数 があります。ちなみに、ここでいう「社員」とは、出資者(株式会社ならば株主)のようなもので、一般的に使う「会社員・従業員」の意味とは異なります。
定款は3部作成後、社員全員が実印を押印します(1部は会社が保存、残りはそれぞれ、公証人役場と法務局に提出します)。定款をつくったら、公証人役場に持って行き『認証』してもらう必要があります。尚、公証人役場についても、法務局同様管轄する地域があり、どこの公証人役場でも持って行けばいい というものではありませんので事前にご確認ください。
認証時には、社員全員の印鑑証明書や、場合により委任状、また4万円の収入印紙や公証人への認証手数料5万円 なども持って行かなければなりません。尚、公証人には、元裁判官など 法律に熟知した人がなられていますが、ここで認証された定款であっても、法務局への登記申請時にはねられてしまう場合もあります。そうならないよう、慎重に定款をつくる必要があります。
定款作成や認証の代理などは、その前の調査等も含めて、司法書士や行政書士などの専門家に依頼することも可能です。自信の無い人や、忙しくて手続に煩わされたくない人は、そうした専門家に依頼することも一策でしょう。4. 出資金の払い込み
定款の認証が終わったら、定款で定めた資本金を、一括して金融機関に払い込みます。払い込んだ金融機関から『出資払込金保管証明書』を2部発行してもらいますが、1部は会社保存用、もう1部は登記申請時に法務局へ提出するものです。払い込みの際、金融機関によって、全くといっていいほど対応が異なりますが、この際 創業後のメイン・バンクを決めるつもりで、対応の良いところ、自分と相性の合う金融機関を探してください(註:出資金払い込みをしたからといって、必ずしもそこをメイン・バンクにしなければならない という訳ではありません)。 公共料金や給料の引き落とし、入金等、その金融機関の利用が一定期間あり、信用が蓄積されていれば、快く払い込みに応じてくれる場合が多いでしょう。銀行等との日頃からの付き合いが大切ということです。尚、払い込みには「現物出資」などの方法もありますが、ここでは省略します。
5. 調査書の作成
出資金払い込みが終わった後、その払い込みが適正に行われたかどうかを、取締役(監査役を定めていれば、取締役と監査役)が調査し、『調査書』を作成します。やはり会社保存用と登記申請用の2部作成します。
このあたり、実質的には創業者個人がやっていることを、自分で調査する というところが、個人とは異なる『法人』の性格が生まれる瞬間だと思っています(実際は、設立登記が完了するまで法人格はありません)。「見せ金」「預け合い」など、会社の資本充実のために禁止されていることを、自分の会社が行っていないか、チェックして報告するのが『調査書』です。6. 法務局への登記申請
法人の種類によっては、『認可』をもって設立完了とする場合もありますが、有限会社や株式会社といった一般的な会社の場合、設立は登記をもって完了(法人がこの世に生まれる)します。上記 出資金の払い込みから2週間以内に、所轄法務局に対し登記申請を行います(登記申請時には、同時に会社代表者の印鑑届け出も必要です)。 予め関係諸官庁に相談しながら手続を進め、それまでの諸手続や類似商号調査などに不備が無ければ、登記はほとんどの場合、無事に完了するでしょう。尚、この登記にも、登録免許税(資本金300万円の有限会社の場合、6万円)などの実費がかかり、手続を司法書士などの専門家に依頼する場合は、当然その費用もかかります。会社設立時には、資本金とは別に 定款認証や金融機関への証明書発行手数料、登記に掛かる費用や印鑑作成料など、一定の費用が掛かるものだ と考えておいてください。
7. 設立後の諸手続
登記が完了すれば会社は設立され、法人格が生まれますが、これだけでは「仏つくって魂を入れず」になってしまいます。実際に事業を行っていくためには、税務署への届け出、社会保険事務所や労働基準監督署への届け出、また事業の内容が飲食店や不動産業、建設業など『許認可』を必要とする業種である場合、その許認可を得なければ事業を行うことが出来ませんのでご注意ください。許認可には、「許可」、「届け出」、「登録」、「免許」などがあり、関係省庁や都道府県知事、警察署、保健所などが申請受付窓口となっています。
会社設立の手続は1回だけですし、有限会社の場合 その後の登記手続はほとんど不要ですが、事業を継続していく上で 税金や雇用、許認可の問題は常に付いて回ります。会社をつくる前から、専門家(税理士、行政書士、社会保険労務士等)に相談しておけば、これらの運営を比較的スムーズに進めることが出来るでしょう。
(4) 株式会社設立の実務次に、株式会社の設立実務について説明していきます。有限会社との主な違いは、有限会社の役員が 取締役1名以上、監査役は任意で置かなくてもよく 任期上も制限が無いのに対し、株式会社の役員は 取締役3名以上、監査役1名(大会社では3名)以上が必要で、取締役2年、監査役3年の任期がありその度に登記が必要となること。有限会社の社員(出資者)は50名以下なのに対し、株式会社の出資者数には制限がないこと(どちらも出資者が出資の限度内でしか責任を負わないという点では共通します)。資本金も有限会社が最低300万円以上なのに対し、株式会社は1000万円以上必要となっています。
株式会社を設立するには、「発起設立」と「募集設立」の二つの方法があります。「発起設立」は、会社が設立に際し発行する株式の総数を、発起人のみが引き受けて 他に株主を募集しない設立方法です。これに対し「募集設立」は、発行する株式を 発起人だけではなく、広く発起人以外の人も募集して引き受けてもらう方法です。「発起人」とは、定款の作成、株主の募集、株式の割当、払込等、株式会社設立を行う創立メンバーのことで、1名以上が必要です。定款に署名し、一株以上の株式を引き受けることとされています。
1.「発起設立」手続の流れ
まず、「発起人会」を開催して会社の基本事項を決め、『発起人会議事録』(発起人1名の場合は『発起人決定書』とする。資本金払込手続の際、金融機関に提出要)を作成します。その後の 具体的な設立手続としては、前述の有限会社設立実務「1.管轄法務局の確認」、「2.類似商号の調査」、「3.定款作成と認証」をご参照ください。定款作成については、有限会社の場合と記載内容が弱冠異なるものの、基本的な注意点はあまり変わりありません。
「発起設立」の場合、発行する株式全てを発起人のみが引き受けることになります。金融機関に1000万円以上の出資金を払い込んで『株式払込金保管証明書』の交付を受けます。その後 「発起人会」を開催して最低3名の取締役と1名の監査役を選任し、『発起人会議事録』を作成しますが、一般的には、最初の設立準備の段階で『発起人会議事録』をつくる際に、発起人メンバーの中で取締役・監査役を選任し 記載しておくことが多いようです。こうして定款に記載しておけば、改めて取締役を選任する必要が無く手間が省けるからです。その後「取締役会」を開催して 代表取締役を選任、『取締役会議事録』に記載します。取締役・監査役による調査と調査書の作成、株式会社設立登記申請 へと続きます。
2.「募集設立」手続の流れ次に「募集設立」の具体的な手続ですが、公証人役場で定款認証を受けるまでは、「発起設立」のすすめ方と変わりありません。しかし、発起人が全ての株式を引き受ける訳ではないため、その後『株式申込証』を作成し 株式を募集することになります。金融機関から『株式払込金保管証明書』の交付を受けた後、「創立総会」を開催して 取締役や監査役の選任、定款の承認 などを行い、その内容を『創立総会議事録』に記載します。
その後はまた 発起設立と同様です。「取締役会」を開催し、代表取締役の選任を『取締役会議事録』に記載、取締役・監査役による調査と調査書の作成、株式会社設立登記申請 へと続きます。
発起設立と違い、株主募集や創立総会開催などが必要なため、設立までの日程は弱冠長くなるでしょう。
3.株式会社設立登記申請どちらの設立方法でも、最後は登記申請を行います。上記 出資金の払い込みから2週間以内に、所轄法務局に対し登記申請を行います(登記申請時、会社代表者の印鑑届け出も必要です)。
株式会社の設立登記も、それまでの諸手続や類似商号調査などに不備が無ければ、ほとんどの場合 無事に完了するでしょう。登記申請の添付書類として、『取締役会議事録』、『取締役及び監査役の調査報告書』、『金融機関からの株式払込金保管証明書』、『代表取締役の印鑑証明書』、『株式申込書(募集設立の場合)』、『創立総会議事録(募集設立の場合)』などが必要です。尚、登録免許税(資本金1000万円の株式会社の場合、15万円)などの実費、手続を司法書士などの専門家に依頼する場合は、当然その費用もかかります。
また株式会社の場合、有限会社と違い取締役に任期がありますので、設立後、本店所在地の移転や目的の追加、増資などが無くても、定期的に登記手続が必要となりますのでご注意ください。
(5) 他の法人組織、事業形態について法人には、有限会社・株式会社・合資会社・合名会社といった、比較的昔からよく聞く名前のもの(普通法人)の他にも、財団法人・社団法人などの公益法人、また近年注目されて来ているNPO法人、学校法人・医療法人・宗教法人等 認可を必要とする法人(中間法人と言われます)があります。
NPO法人とは、NPO法(特定非営利団体活動促進法)に基づいて設立される法人で、これまで社会貢献事業を行って来ていた いわゆるボランティア団体の活動を長く支えていくために有効な方法です。団体が法人格を持つことにより契約主体となることが出来、補助金申請等の資格を得られます。また、そこで働いている人たちが給料をもらえることにより、事業を充実、長続きさせることが出来ます。近年、注目を浴びている法人です。
その他にも事業の形態として、企業や個人事業者が4人(社)以上集まって、国や都道府県の認可を得て設立する『協同組合』(代表的なものは、「事業協同組合」)などがあります。これは、各事業主が平等の権利を持ち、主として同業者が集まることによって スケール・メリットを得よう という主旨のものです。1社で行うよりも、仕入れ条件や販売促進、宣伝効果などでメリットが大きいと考えられます。通常、中小企業1社では行えず、事業協同組合でなければ行えないこと も多く、例えば近年では、『外国人研修生の受け入れ』事業を目的とした事業協同組合の設立が多くなっています。申請受付窓口は国、都道府県ですが、各県の中小企業団体中央会においても手続の相談が出来ます。
(6) 最低資本金制度の特例について
平成15年2月1日より、最低資本金制度の特例の運用がスタートしました。株式会社の最低資本金は1000万円以上、有限会社は300万円以上と定められていますが、これでは学生や主婦、脱サラした人たちなどが法人組織で起業する上で少しハードルが高いと考えられます。旧来型の事業所の廃業は依然高率で推移しており、雇用確保のためにも新規開業を勧める必要があることから、設立後5年間は最低資本金制度を適用しないでも法人設立が行える特例が設けられました。厳しい経済状況の下、起業家の意欲を高めて経済を活性化させるのが狙いです。
この特例を使える条件としては、
(ア)株主自身が創業者であり、設立時に事業を行っていない個人であること。
(イ)各地域の経済産業局に、特例を使用する「確認申請書」を届出ること
(尚、確認申請書には、事業目的、内容、2年間の簡単な事業計画などを記載)。
(ウ)公証人から認証を受けた、定款の写しを提出すること。
(エ)創業者であることの「誓約書」を提出すること。
(オ)設立登記後5年以内に、増資して現在の最低資本金額に達すること、
または合名会社等へ組織変更すること
(もし5年以内に増資も組織変更も行えない場合には、法的に解散させられる)。以上のことが求められています。
これで理論的には、資本金1円でも株式会社を設立することが出来ますが、予想されているのは、資本金100万円、200万円といった有限会社や株式会社が世の中に登場してくるであろう ということです。
尚、この特例を使用している間は、決算報告を経済産業局に毎期届出る義務が生じ、公開縦覧もされ、配当上の制限も加えられます。また、こうして設立された企業(5年で最低資本金に達しなければ解散させられるリスクがある企業)が、銀行や公的機関の融資を受けられるとは考えにくいでしょう。
しかし一方で、企業として事業計画を世に問い、多くの出資者の賛同・共感を得る機会になり、その分宣伝効果などが期待出来るかもしれません。
(7) 外国人が日本で起業する場合について
近年、日本には多くの外国人が定着し、中には日本で会社を設立したり、起業したりする人も多くなって来ています。外国籍の方が日本で事業を行う場合、社会的偏見から来る障害、例えば、金融機関が『出資払込金保管証明書』を出したがらない(註:これについては、たとえ日本人であっても引っ越して来たばかりで信頼関係が無いような場合、金融機関が発行しないことが多いです)などということもあり 努力を要しますが、それ以上に「出入国管理 及び 難民認定法(以下、入管法という)」上の『在留資格(いわゆるヴィザ)』のことを、意識しなければなりません。今持っている在留資格がどんなものかによって、「その人が活動出来る範囲」が細かく定められているからです。場合によっては、入国管理局に対し 在留資格変更許可申請を行って、活動に合った在留資格の許可を得なければならないこともあります。
1.日本で就労可能な『在留資格』の種類
一般的な在日外国人の人たちが持っている 入管法上の在留資格には、大まかにいって3つのグループがあります。
まず、日本人と同じように活動に制限が無く、日本で自由に就職して働いたり、自分で会社をつくって代表者になったり、商売を始めても全く問題が無い人たちです。『永住者』、『特別永住者(いわゆる在日韓国・朝鮮、台湾の方々)』、『日本人の配偶者等(日本人と結婚している人や、日本人の実子)』、『永住者の配偶者等(永住者と結婚している人や、実子)』、『定住者(日系人他)』等の在留資格を付与されている人たちで、この人たちについていえば、日本人と同じように起業しても問題はありません。
次に、自分の専門分野で、かつ入国管理局に許可された職業に就いてのみ、就労が可能である人たち(いわゆる就労ヴィザ、ビジネス・ヴィザを持つ外国人)で、技術者や通訳・貿易スタッフ、外国料理の調理師、教育機関の外国人の先生 などです(ここでは 全ての在留資格とその職業について、詳しく説明することは省略します)。ヴィザで許されている職務内容と合致していれば、正社員として就職することは出来ますが、どれだけ能力があるからといっても 会社やお店の代表者として経営することは出来ません。それは、「本来許されている活動範囲を逸脱している」と判断されるからです。
最後に、基本的に働いてはいけない人たちで、『留学生』や『就学生』、就労ヴィザを持つ人の家族(同居する妻、夫、子)として在留している『家族滞在』の在留資格を付与されている人たちなどです。この人たちについていえば、許可(資格外活動許可)を得られれば 一定時間内でアルバイトをすることは出来ますが、「起業」、「経営」はおろか、正社員として就職することも出来ません。上記2番目と3番目のグループに属する外国人の人たちが、日本でビジネスを起こしたい場合、経営出来る在留資格(『投資・経営』ヴィザ(*)や『永住者』、『定住者』等)への変更が必要となりますのでご注意ください。
(*)尚、在留資格『投資・経営』について、安易に考える方が多いですが、これは「商売を始めれば」「会社を設立すれば必ずヴィザをもらえる」というものではありません。入国管理局より、一定以上の事業規模・日本国内での相当額の『投資』等 厳しい条件を要求されており、これを毎年(または3年毎に)クリアしていかなければ、この在留資格を維持し続けていくことは出来ません。
2.外国人を雇用する際の注意点
また、上記 『在留資格』の問題は、「起業」でないとしても、例えば日本人が経営する会社・日本人の個人事業主が、「社員・従業員として日本にいる外国人を雇用するとき」にも大きな問題となり得ます。
国際化が進展した今日では、仕事の性質上 外国人のスタッフを入れた方がいい場合もあり、そうでなくとも身の回りには、今や『留学生』他の外国人が大勢います。「いい人そうだから」「賃金などの労働条件が合うから」「日本語も喋れるから」といった理由で安易に雇ってしまうと、後日問題になるかもしれません。
雇用時、外国人登録証(外国人登録法により 本人の携帯を義務付けられています)やパスポート等で、在留資格や期限、アルバイトの許可(資格外活動許可)の有無 などをご確認ください。最悪の場合、『不法就労助長罪』が適用されることもありますので、充分にご注意ください。判断がつきかねる場合には、最寄りの入国管理局や、専門家(入管申請取次ぎの行政書士等)へご相談することも可能です。
(以上、2003年2月作成)
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